ブックレビュー 江島周「災神」
「それは海からやってきたー。出雲、消滅。」
天災か?
北朝鮮のミサイルか?
それとも第三次世界大戦の始まりかー。
帯に書かれた衝撃的なコピー。
出雲が・・、消滅?
地元書店さんのつぶやきでこの本のことを知りました。
えー!?一瞬で出雲壊滅!?Σ(゚д゚lll) #江島周 さん『#災神』(KADOKAWA @KadokawaBunko )が話題です!!武器がTwitterってどういうこと!?要チェックですよー! https://t.co/6ZxsfV51nU
— 今井書店 IMAIBOOKS (@imaibooks) 2017年6月5日
(あらすじ)
①鳥取県米子市にある、
陸上自衛隊米子駐屯地の自衛官候補生の新野(ニーノ)は、
高卒後二年目の任期満了を控え、転職を検討していた。
週末に合コンを控えたある日、テレビをつけると
隣の島根県の出雲市が瓦礫の山と化していた。
原因は不明。
救助に行くとしたらおそらく自分たちだ。
正直恐ろしかった。
まだプロの兵士ではない自分には覚悟がなかった。
②大手企業「アマクモ・エナジー」の技術職である天音は、
5年前に東京から出雲に転勤となり
バリバリと働いていたが、上司と対立し退職することとなる。
行きつけである出雲市内のビルの地下のバーで酒をあおり
辞表を書いているうちに眠りに落ちた天音は、
すさまじい地響きと轟音で目を覚ます。
地上に上がると、出雲市内は瓦礫の山と化していた。
③山口県岩国市の海上自衛隊岩国航空基地に駐留しているコルビー大尉は
瓦礫の山と化した出雲市への偵察飛行を命じられていた。
縁もゆかりもない土地、
そして何が原因で破壊されたのかわからない得体のしれない土地、
そんな場所に「東アジアの平和を守るアメリカ」
のパフォーマンスとして遣わされるのは納得がいかなかった。
しかし相棒であるオペレーターのドニーの恋人であるタカコが
出雲市にある島根県立中央病院に転勤になったばかりだという。
それを聞いてもコルビーの心に出雲の人々を救う気持ちは湧いてこなかった。
④内閣官房内閣広報室付の事務官である安間は、官邸で記者発表を控えていた。
出雲を襲った恐ろしい災厄について、真実を隠匿しなければならなかった。
ある大手エネルギー企業との政府の関りは決して知られてはならない。
①~④のそれぞれの視点で物語が進み、
出雲市が壊滅した理由が次々と明らかになっていきます。
以下ネタバレ含みますのでご注意ください。
出雲を一瞬で壊滅させた「災神」の正体は、
稲佐の浜方面からやって来た「ミズチ」と呼ばれる怪物と、
それに寄生する怪物「ヒルコ」だった。
「ミズチ」は伝説上の生き物で、竜や蛇の形をした水神です。
「ミズ」は「水」、「チ」は「オロチ」の「チ」が由来なのだとか。
「ヒルコ」は、イザナギとイザナミの間に生まれた、
手足が異形であったために捨てられてしまった神。
稲佐の浜、あの世感漂う場所なので、
「確かにあそこからなら、荒神が来てしまうかもしれない」
と、思いつつページをめくる。
いや、でもこの展開、
「あの映画」を思い出さずにはいられない!!
と、いうわけでいそいそと「シン・ゴジラ」のDVDをセットして、
BGMにしながら読み進める!
こちらの小説、「アマクモ・エナジー」以外は、
実在の施設・場所が登場するので地元民としては楽しくて!
最初はやっぱりこわごわと読んでいた。
自分たちが暮らす街や、
出雲大社や稲佐の浜といった神聖な場所が、
おもしろおかしくめちゃくちゃにされたり、
フィクションとはいえ、住民が苦しんでいたら嫌だなと。
でも被害状況や襲い来る怪物たちは、
あまりにも現実離れしていて、
必要以上に生々しく描かれることはなく、安心して読むことができました。
それにしても「ミズチ」強い!!
勝手に「ゴジラよりは弱いだろう」と決めつけていたけど、
飛ぶわ、子供を産むわ(子供もすぐ動ける)、
寄生してくっついてきた「ヒルコ」も攻撃力強いし、
いや、これ本当にこんなん来たら出雲どころか、
広島くらいまですぐ壊滅するよー!
最初から最後までハラハラしながら読む感じかなあ、
と思っていたけど、
途中「じーん・・・」とくるところもある。
物語は、すべてが解決しないところで終わる。
「え、そうなの?」
と思ったけど、その方がリアルなのかもしれない。
一冊の物語で、一本の映画で、
一つの街が壊滅した出来事が解決できるわけがない。
私たちが生きる現実だって、
一つの災厄が起きればそこからの物語は解決しないままずっと続いている。
コルビー大尉には「タカコ」が誰なのか気づいてほしいし、
ニーノと天音の再会も見たいし、
阿久津さんも心配なので、
続編が読みたいです。
そして、実写化されたりなんかしたら地元民はワクワクするのだけど。