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田舎暮らしと本と映画。

邦画と本のレビュー。旅と神社と美しいものが好き。

中村文則 「教団X」

ブックレビュー 作家 な行

中村文則さんの独特の世界観に以前から関心があり、この本を手に取りました。

 

・・・嘘です。

「アメトーーク!」の読書芸人の回で紹介されていて、

「おもしろそうだなー」と思ったからです。

 

 (あらすじ)

楢崎は「もう少しで恋人になれそうだったのに、突然姿を消した女・涼子」

を探していた。

涼子はある新興宗教団体に出入りしていた。

 

その情報を得た楢崎は、その団体を訪問する。

その団体で出会った人々は悪くはなさそうな人々だった。

「教祖」に当たる男性・松尾も、飄々とした不思議な爺さんだった。

 

楢崎が涼子の名前を出した途端、人々の顔色が曇った。

涼子は別の新興宗教団体「X」の幹部であり、

松尾に詐欺行為を行い、金を騙し取った女だという・・・。

 

事前にこの本のレビューを読んだら、賛否両論で、

絶賛する人と、ボロカス言う人の差が激しいなー、

と、思っていたのですが、読み終わった今、わかる気はします。

 

この作品は、ひらたく言うと、

○物語

○うんちく

○エロ

の、3部構成になっていて、

 

物語部分をふんふんと読んでいると、

教団の場面になって、性行為の描写がしばらく続き、

教祖さまや幹部が出てくると、宇宙とか政治に関するうんちくが続きます。

 

だからこんなに厚いんだなー。(辞書くらいの厚さ)

このエロ部分とうんちく部分を読んでいるときに感じる既視感は何だろう、

と思っていたのですが、

 

うんちく部分に関しては、

「たまたま行った飲み会の隣の席が、理屈っぽくてヲタク系の男子だったため、

ほろ酔いの彼が語る、彼の得意分野の話についてずーっと、

『うんうん、へ~、そうなんだ。すごーい。』

と、氷が溶けて薄くなったチューハイを飲みながら、相槌を打っている」

ときの感覚と似ていて、

 

エロ部分に関しては大学生の頃、

後輩男子の部屋でみんなでワイワイ飲んでいたら、

部屋の片隅に投げてあった成人男性向けコミックスを見つけて、

女子みんなでパラパラと読んで、

「あは。

(こんな都合よく、バカで、エロくて、ないすばでぃな女おらんわ!)」

って苦笑したときの感覚を思い出す。

 

たぶんこの、うんちく部分とエロ部分に違和感を感じない人は、

「作者すごい!」ってなって、

私みたいに「あは。(苦笑)」ってなる層がいて、

 

後は「不快」ってバッサリ切っちゃう方が、

「★☆☆☆☆」で、レビュー投稿しちゃうのだと思う。

 

でも、物語部分は読んでいて優しい気持ちになった。

楢崎が最初に訪問した宗教団体の教祖である松尾さん。

70代の設定なのだけど、私の脳内では完全に、リリー・フランキー!

 

エログロ満載の作品だから、実写化不可能だろうけど、

教団を叩く気マンマンでやって来たマスコミの女記者に対して

「おっ※いをつつかせてください。モコペンモコペン・・(呪文)」

と、煙に巻いて、ドラえもんの腕時計をつけている教祖なんて、

リリーさん以外、思い浮かばないわ。

 

「X」の信者たちは、朝から晩まで時間の感覚もなく乱れ、交わっている。

多くの信者は、

男性も女性も過去に性的なトラウマを抱えていて、愛も知らない。

 

性をタブー視していて、

性は罪悪と感じている。

楽しむ人間は下劣だと軽蔑する一方で、

トラウマを抱える自分こそ、暗い世界に住む劣った存在だと思っている。

 

そんな思いを抱えて生きる中、

強烈な存在に心身を乱され、タガが外れてしまうと

抑えがきかなくなるのだろうか。

 

人が何かに執着するとき、そこには飢餓感がある。

 

お金に飢餓感があれば、お金に執着し、

愛に飢餓感があれば、相手を束縛したり干渉したくなる、

性に飢餓感があれば、限度もなくのめりこんでしまう。

そんな感じなのかな。

 

過去に大きく傷ついた経験がある人が、

その後の人生も間違った選択をしてしまうことは仕方のないことなのか?

 

そんなことはないのだと、松尾さんの奥さんの「芳子さん」が語っている。

 

貧しい生まれで、身体を売って生きていた若いころの芳子さん。

ある日なけなしのお金で、暗い路地で売っていた蒸かし芋を買う。

それを食べて、その温かさと美味しさに涙が出た。

 

「世界の中にある何かは、自分に対して優しい」

 

その後、松尾さんに出会い、その仕事をやめて松尾さんの妻になる。

 

「世界の全てでなくてもいい。世界の何かは肯定しましょう。」

 

自分に起きた悲しい出来事にフォーカスするのはたやすいことだけど、

どんな人にも必ずある、幸せで温かい出来事に目を向けることができるなら、

その人の人生に優しい時間が流れ出す。

 

私はこの本は、松尾夫妻の優しい愛の物語として、読み終えることにします。

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