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田舎暮らしと本と映画。

邦画と本のレビュー。旅と神社と美しいものが好き。

朝井リョウ 「もう一度生まれる」

大学生を中心にした20歳前後の若者を描いた5つの短編。

登場人物は作品によって、主人公だったりキーパーソンだったり。

 

彼氏がいるのに友人からキスをされた女子大生。

特徴のない自分に不安を抱きながら、美しい同級生に片思いをする男子学生。

母の再婚を認めることができない美大生。

美しい双子の妹にコンプレックスを抱く浪人生。

夢の世界に生きることで苦しむダンサーの卵。

 

私は「僕は魔法が使えない」に登場する、

美大生のナツ先輩が一番好きだ。

 

名前は「ナツ」だけど、「ハル」のような穏やかさを持ち、

「大切に大切に水をあげつづけて実るものではない」「豪雨のような才能」を持ち、

でも繊細さと闇も持つナツ先輩。

 

いつもの癖で、

「実写化するなら、ナツ先輩は誰だー!」

と、脳内キャスティングして、風間俊介氏しか思い浮かばないのだけど、

風間くんって、そういえばもう32才だった・・・・。

 

 朝井作品のライトノベル調の文章にいつも油断をしてしまう。

丸腰で読んでいると、いつの間にか心の奥まで踏み込まれている。

 

朝井作品に出てくる若者は概ね、

「若さ」や「持って生まれた才能や美しさ」を特権に、

身も心も「夢」に捧げているか、

 それを一歩離れたところから静観し、堅実な人生を歩もうとしている。

 

愚かと思われるほど何かに心身を捧げるでもなく、

堅実に人生のすごろくを進めるでもない学生生活を過ごした自分が読んでいると、

心の奥がざわざわとしてくる。

 

私は普段生活していて、マイナス感情で心が乱れることがあまりない。

 

それなのに、 

「自分は何者になれるのか」と悩む苦しみや、

「既に何者かである」と錯覚しているような痛々しさや、

「何者にもなれないのだ」と思う絶望とか、

それぞれいろいろな感情でもがく登場人物たちに対して、

 

「それでもあなたたちは、充分【リア充】だよ。」

「あなたたちの視界にも入らぬ世界で、もっともがく人はたくさんいるよ。」

と、自嘲や意地悪さの混じった冷ややかな感情が出てくる。

 

そして、

「気づいてなかったけど、自分の心はこういうところに反応するのか」

と、知らなかった自分と対峙して、分析して、興味深く思う。

 

なんなのだろうか。

私が勝手に深読みをして、勝手に自分でパンドラの箱を開けているのか、

朝井氏が、パンドラの箱を開けるように仕向けていて、

まんまと引っかかっているのか。

 

それが知りたくて、また朝井氏の本を手に取ってしまいそうだ。