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田舎暮らしと本と映画。

邦画と本のレビュー。旅と神社と美しいものが好き。

西加奈子 「地下の鳩」

ブックレビュー 西加奈子「地下の鳩」

 

本編と、本編に登場する人物を主人公にした短編の、

ふたつの物語で構成された一冊。

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大阪の繁華街が舞台。

キャバレーの呼び込みをする男、吉田。

素人臭いチーママ、みさを。

オカマバーのママ、ミミィ。

夜の街に生きる人間たちの、日常と過去と闇と。

 

人は日常では触れられないものに興味を持つ。

それが猥雑であればなおさらだ。

しかし、その世界があまりに生々しくこちらに切り込んでくると恐怖を感じる。

「ちょうどよく」覗きたいのだ。勝手だ。

 

指が三本しかない時給700円の呼び込みの老人、

左右の目の大きさが全く違う過食症のホステス、

等、登場人物は全員癖がある。

 

ひとりひとりともっと毒々しく描いていて、

気ぜわしく物語が進行していったならば、

途中で読むのをやめていたかもしれない。

 

しかし作者の柔らかな表現と、穏やかな時間の進み方で、

淡々とミナミの夜の街に連れて行かれる。

 

読みふけるうちに私自身も深夜の猥雑な街の中にいるような気がした。

夜露を含むじっとりとした空気を吸っているような気がした。

 

だらしなく女が絶えないキャバレーの客引き男と、

虫歯の治療跡と、虫さされ跡と、開いた毛穴が見苦しいホステスが、

痴話喧嘩をしているのを、目の前で見ているような気がした。

 

物語は闇の中を這うように進み、かすかに灯りが点るところで終わる。

 

続く短編はオカマバーのママ「ミミィ」の視点で綴られている。

 

過去の様々な経験からミミィにまとわりつく闇。

闇と対極にまぶしい、奄美大島の海と赤いブーゲンビリア。

 

繊細に描かれるミミィの心の中。

巨体で「イロモノ」な外見と、対極の柔らかで繊細なそれを

抱きしめたくなりする。

 

最初のページをめくったときは、

「非日常で猥雑な世界が綴られていくのだろうか、それも悪くない。」

と、思いながら恐る恐る読み進めた。

 

本を閉じる頃には、そんなことを思ったことは全く忘れていて、

ただ登場人物たちの心の中の、脆くて柔らかい部分が愛おしかった。